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生産管理をエクセルで行う限界とは?脱Excelで工数を半減する方法
目次
製造業の生産管理において、エクセルは定番ツールとして、長年にわたって親しまれてきました。エクセルは、パソコンにインストールされていれば無料で使えて、多くの方が操作に慣れています。だからこそ、多くの製造現場でなくてはならない存在なのでしょう。
しかし、エクセル管理はいずれ限界を迎えます。
この記事では、実際の製造業が直面している生産管理のエクセル運用における課題と、それを解決した企業の実例をご紹介します。
生産管理のエクセル運用でよくある課題
製造業の事業が拡大し、扱う案件数が増えてくると、エクセルでの生産管理には限界が見え始めます。こんな経験はありませんか?
- どのファイルが最新版なのか分からない
- 工場に出向かないと現場の混み具合や納期が分からない
- 複数のエクセルファイルを行ったり来たりして必要な情報を探すのに時間がかかる
実は、これらはあなたの会社だけの問題ではありません。成長過程にある多くの製造業がエクセル運用で直面する共通の課題なのです。
工程管理責任者や生産管理担当者の方々からは、「複数のエクセルにまたがるような管理が必要で、データを一箇所にまとめたい」という声も多く聞かれます。
エクセル管理が抱える4つの限界
なんとなく「不便だな」と感じていても、具体的に何が問題なのか整理できていないケースもあるでしょう。
生産管理をエクセルで行う場合、主に4つの限界があります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. データの分散による探し物時間の増加
生産管理において、エクセルを使う現場からよく聞こえるのが、「データを探す過程に時間が取られる」という声です。
案件ごと、月ごとにエクセルファイルを作成していくと、ファイル数は膨大な量になります。「あの案件の進捗、どのファイルに入力したかな?」と、複数のファイルを開いては閉じ、確認する作業。これを一日に何度も繰り返していませんか?
ファイルが増えればフォルダ階層も深くなり、ファイル名の付け方が統一されていないと検索も困難になります。情報を探すだけで時間がかかる場合、エクセル運用の限界です。
エクセルファイルを探す時間、必要な情報を探す時間を記録すると、改善の余地が見つかります。
2. 情報管理と更新作業の属人化
ある製造業の経営者は、「自分だけで納期管理をすることに限界を感じた」「工場に出向いて混み具合や納期を確認しなければならない状況だった」と振り返ります。
この原因となったのが、エクセル運用です。社長や担当者個人のパソコンに生産管理の情報がエクセルファイルとして保存されていたために、「その人しか知らない」状況が生まれてしまったのです。この状況下では、次のような弊害が生じます。
- 担当者が不在のときに生産管理業務が停滞する
- 引き継ぎに多くの時間がかかる
また、担当者しか扱えないマクロや複雑な関数を使用し、メンテナンスができなくなるケースもあるでしょう。会社を強くするためには、「誰もがわかる」状態にする必要があります。
特定の人しか分からないエクセルファイル、記憶に依存している生産管理の情報を洗い出し、情報の属人化で困っている業務をリストアップしてみてください。
3. リアルタイム性の欠如
「今、現場の工数がどうなっているか見えない」。これもエクセル管理の課題です。現場で作業が進んでいても、エクセルに入力・保存されるまでは、その情報を事務所で確認することができません。
お客様から「あの品物、いつできる?」と電話があった際、折り返しの電話対応になっていませんか?現場に確認をして、エクセルを開いて、最新の情報を探して………これでは即答なんて難しいですよね。
さらに誰かがファイルを開いていると他人は更新できない操作性も対応が遅れる要因です。タイムラグがある情報は、判断を誤らせる原因にもなります。
現場の進捗、工程の状況、納期の見込みなど、リアルタイムで状況を把握したい業務は何かを特定し、改善に活かしましょう。
4. バージョン管理と情報共有の困難
メールでエクセルをやり取りしていると、それぞれのパソコンで別々に更新され、どれが最新のファイルなのか分からなくなることがあります。
- 「最終版」「最新版」「確定版」など、同じ内容のファイルが複数存在する
- メールで共有したエクセルファイルが、それぞれの場所で独立して更新される
- 現場と事務所で異なるバージョンのエクセルが更新される
これらの問題を放置すれば、古い図面や指示で加工してしまったり、二重入力の手間が生まれてしまったりといったリスクが常につきまといます。
重複するエクセルファイルの存在を把握し、リスクを認識してみてください。
脱エクセルで実現した成果事例
それでは、生産管理のエクセル運用から脱却した企業は、どのような成果を上げているのでしょうか。生産管理システムを導入した実際の事例を見ていきましょう。
事例1:年間600万円以上のコスト削減を実現
生産管理システム「エムネットくらうど」を開発・提供し、製造業を営んできた当社日本ツクリダス社の事例です。かつてエクセル管理をしていた頃と、システム導入後でどれくらい変化があったのか、数字で比べてみましょう。
| 比較項目 | エクセル管理 | システム導入後 |
|---|---|---|
| 人員体制 | 社員2名+パート0.5名(2.5人稼働相当) | パート2名(1人稼働相当) |
| 人件費(月額) | 70〜80万円 | 20万円未満 |
| 年間効果 | ー | 600万円以上の削減 |
この結果、投資回収期間はわずか2ヶ月でした。 ROI(投資対効果)は、10倍にものぼります。
「エクセルは無料」とよく言われますが、そこにかかる膨大な人件費(管理工数)を考えると、実は非常に高コストなツールだったことがわかります。
事例2:工数の見える化による原価管理の精度向上
ある工程管理責任者は、エクセルでの生産管理について、「工数がどうなっているかが見えていなかった」と話してくれました。
生産管理システム導入後は、時間を計測し、工数を金額に反映できるように。「この仕事、儲かっていると思っていたけれど、実は赤字だったのか!」という経営にとって大きな気づきが得られたそうです。
また、これまで個人のパソコンに保存されていた情報が一箇所に集まることで、検索の手間が激減。エクセルでは手動で入力・集計していた工数管理も、自動的に記録・集計され、生産管理の精度が向上しました。
事例3:情報共有による顧客対応スピードの向上
生産管理システム導入によって、現場の加工状況がいつでもどこでも分かるようになり、生産管理の業務スピードが上がった事例もあります。
たとえば、次のようなシーンで電話やメールで確認をする手間や現場に足を運ぶ手間が不要になりました。
- お客様から納期回答を求められたとき
- 出張先から、現場の進捗が知りたいとき
こうしたスピード感は、そのまま顧客満足度につながります。エクセルでは実現できなかったリアルタイムの情報共有により、会社の信頼度はグッと上がります。
事例4:チームワークの向上と組織の一体感
脱エクセルの意外な効果として、組織全体の連携が改善された事例もあります。
従来のエクセル管理は、事務所と現場の情報が分断されていました。生産管理システムを通じて同じ情報を共有できるようになると、「事務所と現場が一丸となれた」感覚が生まれたそうです。
職人からは「社員自身が先の仕事や工程について考えてくれるようになった」という変化が報告されています。現場リーダーも「職人さんと一緒に仕事をしている気持ちになれた」と表現しています。情報共有が進むことで、チーム全体の一体感が生まれた好例です。
エクセルからスムーズに移行する3つの方法
生産管理のエクセル運用から脱却したいと思っても、「いきなりシステムを導入して、現場が混乱しないだろうか」という不安を感じる方も多いでしょう。
実は、エクセルからの移行に成功している企業には共通した導入アプローチがあります。
方法1:全員が使えなくても良い段階的な導入
エクセルからスムーズにシステム移行するには、段階的なデジタル化が有効です。
まずは、新しいもの好きの若手や、やる気のあるリーダーから使い始めてもらうこと。エクセルと併用する期間があっても構いません。いきなり全員がシステムを使いこなそうとせず、徐々に移行していきます。
これには全員が使えなくても運用できる仕組みが欠かせません。便利なものは、放っておいても周りが勝手に使い始めますから、焦らずじっくり浸透させるのが正解です。
方法2:既存の運用を活かしたハイブリッド運用
ペーパーレスを強要せず、バーコード貼付で段階的に移行する方法もおすすめです。
多くの製造業では、図面や指示書を紙ベースで運用しています。エクセルと紙の併用も一般的です。その運用を無理に変える必要はありません。
今まで通りの図面や指示書に、バーコードシールを一枚貼り、現場はバーコードリーダーでピッと読みとるだけ。紙の運用は継続しながらデジタル管理とのハイブリッド運用が可能です。
エクセルや紙の運用に慣れた現場への負担を最小限にしながら、アナログで管理していた情報を少しずつシステムに移行できます。
方法3:計画より「見える化」から始める
エクセルからの移行で一番つまずくのが、最初から完璧な生産計画をシステム上で組もうとしてしまうことです。エクセルで行ってきたように細かい計画を立てることよりも、現状把握を優先しましょう。
まずは、みんなで情報を共有できる環境の構築を進め、「誰がどの機械で何をやっているのか」を見える化します。リアルタイムで現場を把握できるだけでも、情報共有がスムーズになり、「無駄な時間がなくなって、できる仕事が増えた」と効果を実感できるはずです。
予定を立てるのは、現場がシステム入力に慣れて、「現状」が正確に見えるようになってからで遅くありません。まずはハードルを極限まで下げて、システムを使う習慣をつけることがシステム化を定着させる近道です。
生産管理システムに求められる条件
では、エクセルでの生産管理の課題を解決するには、どのようなシステムが必要なのでしょうか。
条件1:データの一元管理が可能なこと
最も重要なのは、クラウド上の1箇所にデータをまとめて保存できるシステムであることです。
(※クラウドとは、インターネット上にデータを置く仕組みのこと。会社のパソコンではなく、ネット上に「みんなで使う共有の保管場所」があるイメージです)
複数のエクセルファイルに分散していた情報を集約できれば、情報検索の時間が劇的に短縮されます。
また、図面や写真などの大容量ファイルも安心して保存できる「Dropbox連携」などの機能があると便利です。「案件ごとの自動フォルダ作成」機能があれば、エクセルで行っていたようなファイル管理のルールを考える必要もなく、自動的に整理された状態で情報が蓄積されていきます。
条件2:多用途に活用できる柔軟性
生産管理だけでなく、「在庫管理」や「設備のメンテナンス管理」に応用できる柔軟性も重要です。
複数のツールを使い分けるのは面倒ですよね。中小の製造業が管理するべきものの大半をカバーできるシステムであれば、次の管理業務を一つのシステムで対応できます。
- 生産管理
- 在庫管理
- 工数管理
- 設備管理
手間の入力が減り、アイデア次第でエクセルでは難しかった独自の業務フローにも対応できます。
条件3:段階的に機能拡張できること
エクセルから生産管理システムの移行では、最初からすべての機能を使いこなす必要はありません。
自社の運用に合わせて調整できる「カスタマイズ性」や、将来的に事業が拡大しても対応できる「拡張性」があるかどうかがポイントです。
また、無償アップデートで自動的に機能が改良されていくクラウド型なら、便利に利用できるだけでなく、買い換える必要もないので経済的でもあります。
段階的な脱エクセル戦略
エクセルから生産管理システムへの移行は、いきなり100点を目指すと失敗します。エクセルからの脱却は、登山と同じで一歩ずつの積み重ねです。ここでは、成功のための3つのポイントを紹介します。
ポイント1:完璧を求めず、小さく始める
30%の改善でも継続すれば大きな効果があります。
全部をシステム化しようとせず、まずは一番困っている「図面探し」だけ解決する、といった小さなスタートでいいんです。そこから徐々に範囲を広げていきましょう。
費用が安くて、いつでも辞められるサービスなら、リスクもありません。「100%システム化」と完璧を求めずとも、エクセルとの併用から小さくチャレンジできます。
ポイント2:使いながら改善する
「使いながら改善を継続」することで、自社に最適な運用方法が見えてきます。
「ここはエクセルのほうが早い」と思えば、エクセル運用の部分を残しても問題ありません。システムが得意な部分はシステムに任せます。つまり「適材適所」で、ハイブリッド運用をするのも一つの選択肢です。
必ずしもシステムで解決しようとせず、使いながら、「うちはこう使ったほうが便利だな」と工夫していく過程こそが、会社のノウハウになります。
ポイント3:現場の受け入れを最優先に
現場のスタッフにも受け入れられるシステムであることが、エクセルからの移行成功の必須条件です。
70代の職人さんでも使える簡単なシステムを選んでください。操作が複雑だと、現場での定着が進みません。実際に当社の生産管理システム「エムネットくらうど」を導入した企業では、シンプルな機能と画面表示のシステムを選定し、年齢に関係なく全員が活用できています。
まとめ:生産管理システムの導入は競争力を高める
製造業の生産管理において、エクセルは馴染み深いツールです。しかし、業務の拡大とともにどうしても限界がきます。エクセル運用では、情報が属人化し、リアルタイムでの情報共有が困難です。データを探す作業にも時間が取られてしまいます。
年間60万円の投資で600万円以上のコスト削減を実現した当社の事例が示すように、生産管理の課題を解決することは、企業の競争力を高める戦略的な投資でもあります。この事例では、製造業に従事してきた当社が開発した生産管理システム「エムネットくらうど」を活用しています。
生産管理のエクセル運用から脱却したい方、まずは「小さく」始めてみませんか?ぜひお気軽にご相談ください。
当社がおすすめするバーコードリーダーの条件は次のとおりです。
- 有線タイプ
- 価格帯は4,000円程度
- 読み取り範囲は10〜30cm程度
日本ツクリダスでは現場の方が使う環境やシーンを考えた結果、世の中的に好まれる高性能品よりも、汎用品の方が現場に合っていると考えてご紹介しています。確実性・簡単さ・メンテナンス性を重視した選択で、製造現場での生産性向上を実現します。
この記事の監修者
角野 嘉一(かどの かいち)
日本ツクリダス株式会社 代表取締役 / エムネットくらうど プロダクト責任者
前職において父親の経営する鉄工所でデジタル化を推進し、業務効率化とネット集客の両面から改善を行うことで、売上高200%アップを達成。その経験を土台に、2013年に独立して日本ツクリダス株式会社を創業した。金属加工業務と並行して、町工場でも使いやすい納期・工程管理システム「エムネットくらうど」を開発し、2025年現在では約170社が利用するサービスへと成長させている。
製造現場での20年にわたる実務経験に加え、DX・生産管理の両面に精通した専門家として注目され、テレビ、雑誌、Webメディアなどからの取材も多数あり、製造業界専門誌への寄稿実績もある。デジタル化の取り組みが評価され、2021年 全国中小企業クラウド実践大賞 近畿大会「近畿総合通信局長賞」、2024年 経済産業省「DXセレクション」優良事例企業に選出された。
著書『マンガでわかるやさしいDX デジタルとアナログを融合し、仕事の効率化を目指す本』では、現場で培った改善ノウハウを体系化。本記事でも、自身の経験と知見をもとに、町工場の現場で本当に役立つ生産管理とDXのポイントをわかりやすく解説している。