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ベテラン職人を味方につける!システム導入の伝え方

ベテラン職人を味方につける!システム導入の伝え方

「新しいシステムを導入したいけど、ベテラン職人さんが反対している」 「『今までのやり方で十分』と言われてしまった」 「現場の協力が得られずに導入が進まない」

町工場でシステム導入を検討する際、こうした現場への説得に悩む経営者は少なくありません。
この記事では、ベテラン職人の理解と協力を得るための効果的なコミュニケーション方法をご紹介します。



まず理解しよう:なぜベテラン職人は新システムに抵抗するのか?

まず、ベテラン職人がシステム導入に抵抗感を持つ背景を理解することが大切です。システム導入に反対する声の裏側には、それぞれの理由があります。

理由1:変化への不安

ひとつは、技術的な不安です。
「パソコンは苦手……」「操作を間違えそうで怖い」といった声は、年齢に関係なくよく聞きます。

これまで、紙と手書きに慣れてきた方にとって、システムは未知のもの。若い世代に迷惑をかけるのではないか、と心配になるベテラン職人もいらっしゃるでしょう。

また、心理的な抵抗も見逃せません。
長年積み重ねてきたやり方や感覚が、まるで軽んじられているように感じてしまうケースもあります。「これまでの経験が通用しない」と誤解されれば、納得や協力を得るのは難しくなります。

理由2:現状への満足

今のやり方で問題ないと感じている場合、仕組みを変える必要性が見つかりにくくなります。システム導入前の現場では、メモや記憶を頼りに現場を回してきたはずです。

「紙のほうが早い」「長年の勘で効率よくやれている」「自分なりに工夫を重ねてきた」。こうした経験があるからこそ、変化に対して慎重になるのは自然な反応です。職人としての誇りが、システム導入への抵抗感を強めてしまうのです。

理由3:管理されることへの反発

新しいシステムを「仕事の監視につながる仕組み」と捉えるベテラン職人もいます。

ベテラン職人にとっては、これまで必要のなかった入力作業が発生するうえに、仕事の進捗が見える化されます。システム管理によって、自分のペースで仕事ができなくなるのではないかと不安を感じるのも無理はありません。

とくに、経験豊富な職人ほど、自分の記憶や判断で業務を遂行してきたという自負があります。そこへ急に数字や手順のルールが加われば、裁量を奪われるように感じるケースもあるでしょう。

システムに管理されていると見なされてしまえば、いくら便利な仕組みでも受け入れられにくくなります。

理由4:過去の失敗経験

以前、別のシステムを導入した際に混乱や失敗を経験した現場では、新しい取り組みに対して慎重になるのも当然です。

たとえば、操作が複雑すぎて現場になじまなかった記憶があるベテラン職人がいるとしましょう。一度こうした経験があると、たとえ内容がまったく異なっていても、「また同じようになるのでは」と警戒心が働いてしまうケースは珍しくありません。

まずは、こうしたシステム化に抵抗する背景を否定せずに受け止めることが、スムーズなコミュニケーションの第一歩です。



ベテラン職人の心を動かす伝え方の基本原則

現場で長年働いてきたベテラン職人に新しいシステムを受け入れてもらうには、単に機能の説明をするだけでは不十分です。相手の立場に立った伝え方を意識しましょう。ここでは、ベテラン職人の心を動かす伝え方を4つ紹介します。

原則1:職人の価値を認める

まず伝えるべきは、ベテラン職人に対する敬意です。長年培ってきた技術や知識の価値を言葉にして認めます。そして、「システムは職人の技術を補完するもの」と位置づけ、次のように伝えます。

  • 「○○さんの技術があってこそ、当社の品質が保たれています」
  • 「新しいシステムは、○○さんの技術をより活かすためのツールです」

上記はあくまで一例ですが、システムは職人の知識や勘を否定するものではなく、それを支えるためのツールである旨を伝えましょう。それぞれの立ち位置をはっきりさせて、システム導入への抵抗感を和らげます。

原則2:メリットを職人目線で説明する

次に重要なのは、システム利用のメリットを現場の言葉で説明することです。現場の人間にとって抽象的な言葉よりも、具体的な変化を伝えた方が導入効果をイメージをしやすくなります。



抽象 具体
作業効率の向上 「図面を探す手間が減る」「着手する順番が分かり納期遅れが減る」「作業の進捗を聞かれることが減る」
品質向上の支援 「過去の作業記録を参考にできる」「技術の伝承がしやすくなる」「ミスを未然に防げる」
負担軽減の効果 「記録作業が楽になる」「問い合わせ対応が減る」「残業時間を短縮できる」

会社の都合ではなく、自分にとっての得と感じてもらえるように伝えてみてください。

原則3:段階的なアプローチ

最初からすべての機能を使ってもらおうとすると、かえって負担になり、反発を招きます。無理のないステップで進めることが、継続的な活用につながります。

まずは、他の社員が使っている様子を見てもらったり、実際の画面を一緒に眺めたりする「観察」から始めてみましょう。質問や疑問を自由に聞いてもらえる場を設けます。

次に、簡単な操作だけを体験してもらい、失敗しても問題のない範囲で試してもらいます。「わからなくて当然」というスタンスで、ベテラン職人のペースに合わせて指導すれば、安心してもらえるはずです。

そして、いよいよ実際の業務に活用します。困った時のサポート体制を整備することも重要です。段階的なアプローチで小さくスタートして、システムの効果を実感してもらいましょう。

原則4:選択肢を提供する

最後に意識したいのが、選択の余地を残すことです。

決して強制せず、利用する・しないの選択を委ねる方が結果的に協力を得やすくなります。

「試してみて使いづらければもとの運用に戻してもいい」といった柔軟な提案で、相手の心理的なハードルを下げましょう。自分の意志で関わったという実感が持てるよう、ベテラン職人の気持ちを尊重してあげてください。



実際に使える!ベテラン職人への説明シナリオ

ここからは、実際に現場で使える「伝え方の具体例」を紹介します。話す内容に困ったときのヒントとして、ぜひ参考にしてください。

シナリオ1:初回の説明時

まずは、これまでの貢献をねぎらう言葉から始めると、相手も話を聞く姿勢になりやすくなります。

「○○さん、長年お疲れさまです。いつも丁寧な仕事で、会社を支えてくださってありがとうございます」

そのうえで、現場の状況を共有しながら、導入の背景を伝えます。

「最近、お客様からの問い合わせが増えて、○○さんにも迷惑をかけることが多くなっていませんか?」

そして、新しいシステムの役割と狙い、メリットを、職人の立場に寄り添って伝えてみましょう。

「そこで、○○さんの技術をもっと活かせるように、管理の部分だけシステム化できないかと考えています」
「記録や対応を一部システムに任せることで、事務的な負担を減らして、本来の技術的な仕事に集中できる環境を整えたいんです」

協力を強制するのではなく、相談する姿勢を見せて信頼につなげます。

「もちろん、無理にお願いするつもりはありません。まずは見ていただいて、○○さんのご意見を聞かせてください」

シナリオ2:懸念への対応

もしシステム導入を懸念する声があがった場合は、頭ごなしに否定するのではなく、相手の気持ちに共感しながら答えるのが基本です。

「コンピューターは苦手」といわれた場合

「最初はみんな戸惑いますよ。でも○○さんなら、きっと大丈夫です。それに、複雑な操作は一切ありません、私がサポートしますので、安心してください」

「今のやり方で十分」といわれた場合

「おっしゃる通りです。○○さんの今のやり方は本当に効率的ですよね。システムは、その効率的なやり方を支えるためのものです」

「管理されるのは嫌」と言われた場合

「管理するためではなく、○○さんの技術や経験を会社の財産として残すためのシステムです。○○さんの貴重な知識を若い方に引き継げるようにしたいんです」

シナリオ3:体験してもらう時

操作を始める際は、難しくないことを強調し、安心感を与えましょう。

「難しそうに見えますが、実際はとても簡単です。○○さんがいつもやっている作業を、ちょっと違う方法で記録するだけです。」

もし途中で失敗したとしても、明るくフォローします。

「全然問題ありません。みんな最初はうまくいかないものです。私も最初は何度も間違えました」

反対にうまくできたときには、褒め称え、自信と関心につなげます。

「さすが○○さん!覚えるのが早いですね」

シナリオ4:継続的なサポート

導入後も、気にかけていることが伝わる定期的な声かけがあると、距離感が縮まります。

「○○さん、最近、システムを使ってみていかがですか?何か困ったことはあれば、遠慮なくおっしゃってください」

また要望や意見から、システム改善につなげます。

「実際に使ってみて気になったところや、もっとこうだったらいいのにと感じた点はありますか?」

成果が出たときは、本人の力として評価し、共有しましょう。

「○○さんのおかげで、お客様への回答が早くなったと喜ばれています」


絶対避けたい!ベテラン職人への「やってはいけない」伝え方


どれだけ丁寧に準備しても、伝え方ひとつで信頼を失うことがあります。以下のような言動は要注意です。

NG行動1:上から目線の説明

上から目線の物言いに聞こえてしまうと、その時点で話を聞いてもらえなくなるかもしれません。

NG表現:「みんな使っている」「覚えられないはずがない」

大切なのは、相手のやり方を否定せず、今よりもさらに良くする方法として提案する姿勢です。

NG行動2:強制的な導入

一方的な導入決定の通知も反発を招きます。

NG表現:「来月から絶対に使ってください」

理解や納得がないまま、期限を区切って強制すれば、形だけの導入で終わってしまう可能性があります。システムを使わない人を批判せず、少しずつ慣れてもらい、定着を目指しましょう。

NG行動3:現状の否定

これまでのやり方を批判してしまうと、経験や工夫をすべて否定されたように感じさせてしまいます。

NG表現:「今のやり方は時代遅れ」「効率が悪い」

現場経験を軽視するような言い回しは避けて、相手を尊重するコミュニケーションを心がけましょう。

NG行動4:説明不足

導入前から導入後まで、すべての段階において、説明不足のまま物事を進めてしまうと、納得感が得られません。

NG表現:「とにかく使ってみてください」

なぜ導入するのか、どんなふうに助けになるのか、どこまでサポートがあるのか。そうした情報があって初めて、前向きに受け止めてもらえます。

質問を受け流したり、困ったときの対応を曖昧にしたりすると、「結局、現場任せ」と思われてしまうおそれもあるため、十分なサポートが必要です。

NG行動5:感情的な対応

相手の反対意見に対して感情的に返してしまうと、信頼関係は一気に崩れてしまいます。

NG表現:「だったらもう使わなくていいです」「なんでそんなに頑ななんですか?」

このような言葉は、対話の余地をなくしてしまいます。また、他の社員がいる前で批判したり、話を打ち切ったりするのも避けたい対応です。

反応が思うようでなくても、落ち着いて向き合い続ける姿勢が、信頼の構築につながります。



導入後も大切:継続的なサポートで信頼関係を築く

システム導入は、スタートがすべてではありません。

導入後も現場に寄り添い、継続的なサポートを続けることで、職人との信頼関係は深まっていきます。

1. 定期的なコミュニケーション

導入直後はもちろん、落ち着いてきたタイミングでも「最近どうですか?」といった声かけが大切です。

使用状況や困っていることを聞き出すだけでなく、「○○に効果が出ています」「ありがとうございます」といったフィードバックを伝える機会にもなります。

2. 柔軟な対応

人によって習得スピードには差があります。慣れるのが早い人もいれば、ゆっくり理解を深めたい人もいるのは、当然です。

「何度でも説明します」「やり方を少し調整しましょう」といった柔軟な対応で、それぞれのペースに合わせてシステム導入を進めると、現場側も安心して取り組めます。

3. 成果の共有と感謝

実際に成果が出てきたら、具体的な数字やお客様からの評価をしっかり伝えることも大切です。

たとえば、「コストと利益を可視化できたおかげで売上が30%あがった」「問い合わせ対応の早さに関してお客様から評価いただいた」と、改善効果を見える形で共有します。

ベテラン職人の貢献があってこそ得られた成果であることも、あわせて言葉にして伝えましょう。「導入してよかった」と感じてもらいやすくなります。

4. 改善への参画

実際に使っている人だからこそ、気づけることがあります。

「ここが少し使いづらい」「この操作がもう少し簡単になると助かる」

そういった声を拾い、可能であれば改善に反映させることで、「自分たちが育てているシステム」という感覚が生まれます。使わされる側から使う側へと視点が変わり、より参画している意識が強くなります。



まとめ:信頼関係がシステム導入成功の鍵

ベテラン職人の協力を得るためには、技術的な説明よりも人間関係とコミュニケーションが重要です。ベテラン職人を尊重したうえで不安を理解し、メリットを分かりやすく伝えていけば、必ず理解を得られます。

成功のポイント:

  1. 職人の価値と経験を尊重する
  2. メリットを現場目線で説明する
  3. 段階的に導入し、無理のない進め方を心がける
  4. 導入後も継続的なサポートを提供する

時間はかかるかもしれませんが、ベテラン職人が味方になってくれれば、システム導入は確実に進んでいきます。